LOST ANGEL

「起きてたわよ。目はつぶってたけど」

あっけらかんとしている杏奈。

「きたねーな」

「いいでしょ。あんたとお兄さんの会話の邪魔したら悪いと思ったんだから」

ろくな会話はしていなかったと思うんだが。

幽霊の話くらいしか…

「あっ、傷つかなかった?」

「何が?」

「幽霊否定されて…」

本人の目の前だもんな。

いや、あの場合真上か?

「別に。シカトされ続けてきた
し、わたし自身幽霊とか信じてなかったから」

「そうなんだ」

「あんただって最初は信じてなかったじゃん」

そうだけど、結局は信じたんだ。

信じるしかなかったんだ。

たとえ見間違いでも、彼女が嘘を言っていたとしても、この瞳を見ていると信じなければいけない気がするんだ。

不思議な気持ちになる。

理由もなく、人を好きになることに似ている感覚。

「別に恋じゃないけど…」

小さくこぼれ落ちる言葉。

「何か言った?」

「いや」

「あんたボソボソとした独り言多い。悪いクセね」

カチンときた。

「いいだろ。お前だって態度でかいのは悪いクセだぞ」

「お前って言わないでよ!」

「そっちこそ、あんたって呼ぶなよ!」

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