LOST ANGEL
3 イキテキタミチ

杏奈の地元へ向かうために電車に乗った。

車内ではなるべく話さないように吊り革につかまり音楽を聴いている。

その目の前で杏奈は座っている。

イスではなくぽっちゃりとしたおばちゃんの上に。

笑わないように耐えるのが大変だった。


「つぎ、下りるよ」

そう言われ、オレは小さく頷く。



下車した駅は結構な人が行き交う都心に近い駅だった。

「乗り換えは?」

「ないよ。ついてきて」

杏奈は慣れたペースで人の波をかき分け、スムーズに改札まで進
む。

彼女が幽霊だからという訳ではない。

迷いなく歩いていく姿は、この駅を彼女が何度も利用していた証拠だ。

オレは杏奈の背中を追うことで精一杯だった。

「ここからは歩き」

「近いの?」

「5分位かな…」

しかし、そう言ったきりで杏奈は歩きだそうとはしなかった。

「どした?」

「……」

「具合、悪いのか?」

杏奈の顔を覗き込む。

「幽霊が具合悪くなるわけないじゃん…」

そりゃ、そうだ。

杏奈は人込みを避けて、駅裏の路地までゆっくりと足を進めた。

そして、また立ち止まる。

「ゴメン…」

うつむく杏奈。

「…やっぱり、行きたくないの
か?」

「それもあるけど…」

けど?

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