LOST ANGEL
「どれ?」
「1番手前のボロっちいやつ」
杏奈は喋るだけだった。
「手前…って、駐車場挟んだ向こう側?」
「そう」
杏奈がいうアパートは本当にすぐ近くにあり、失礼だが本当にボロっちかった。
こちら側からも向こうのアパートの廊下側が見える状態になっていて、部屋数は1階、2階合わせて8部屋、部屋の前に自転車や掃除道具、ゴミ袋等が無造作に置かれている。
「杏奈の部屋ってどこ?」
「2階の左から2番目」
「あそこか…」
自転車が立て掛けられている。
杏奈のものなんだろうか?
「じゃあ、行こう」
「……」
杏奈は膝に顔を埋めた。
「杏奈?」
「やっぱり、あたし行かない」
「えっ…なんで。せっかくここまで来たのに。この時間なら、お母さんいるだろうし…」
「会っても意味ないよ」
杏奈は顔を隠したまま話す。
「なんで?」
「だって、わたし幽霊だし…見えないし」
「親だったら見えるかもしれないだろ!」
つい声を張ってしまう。
「それに…」
杏奈が何か言おうとしたときだった。
「あっ」
杏奈の部屋のドアが開いて女性が出てきたのだ。
「…?」
「あれ、杏奈の…お母さん…?」
茶髪のロングヘア、Tシャツにジーパンというラフな格好の女性だった。
見た目の年齢からして杏奈の母に間違いないと思う。