LOST ANGEL
杏奈はそっと立ち上がり、その姿を確認する。
「お母さんだろ?」
「…うん」
小さな声で頷く杏奈。
杏奈の母はどこかへ出掛ける様子である。
「はっ早く、下におりよう!」
焦る自分とは対照的に杏奈はじっくり周囲を見渡している。
「何やってんだよ!早く!」
オレは階段に足をかけて微動打にしない彼女に向かって叫んだ。
「わたし、いかない」
「えっ?」
なんで……?
「会いたくない」
「でも…」
「行きたいなら、ひとりで行ってよ!」
アパートを見ると杏奈の母は既に階段を下りていた。
オレは杏奈を置いて階段を掛け降りる。
緊張も重なって足がもつれそうになる。
それでもオレは杏奈の母の元へと急いだ。
駐車場に1台立派な車が停まっている。
杏奈の母は大きな荷物を抱え、その車に向かって歩いてきた。
運転席からスーツ姿の男が下りると、後部座席のドアを開け荷物を受け取る。
男は助手席のドアを開け、運転席に戻った。
杏奈の母が助手席に乗ろうとしたところへ、やっとオレがたどり着いた。
「あっあの…」
息を荒くして声をかける。
杏奈の母は驚いたようにオレを見た。
「あっ…えっと…千葉杏奈さんの…」
「ごめんなさい。時間がないの」
杏奈の母はオレを追い払うように助手席に乗り込んだ。