LOST ANGEL

「でも、あの人の言ってたこと分かるな」

ソファーにゆっくり座る杏奈。

「あの人?」

「だから元カノさん」

「…ああ」

オレも杏奈の隣に座る。


「人は変わらないと生きていけないってこと」

「……」

「わたしは昔の慧斗を知らないけど、もし本当に変わらないで生きてきたなら、それはスゴいと思
う」

杏奈は真っ直ぐ前を向いたまま、真剣な顔をしている。

「そんな、変わらない人なんて沢山いるだろ」

「だったら、お兄さんは?」

「兄貴?」

「昔から、あんなにチャラかったの?」

それは…

「子供の頃からチャラかった?」

あんな子供いたら嫌だな。

「大学入ってからかな…」

「ね、変わったでしょ」

「…ぅ…うん」

例えが例えだったので、あまり納得したくなかった。

「世間に揉まれてさ、みんな変わっていくんだよ。そして用途に合わせた顔を覚えていく」

「用途?」

「先輩や上司にはいい顔しとくみたいな」

なるほど、そういうことか。

「わたしもバイト先では営業スマイルしてたもん」

「杏奈、バイトしてたの?」

「してちゃ悪かったの?」

「いや…」

なんか想像できないな。

「接客?」

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