“愛してる”の、その先に。
「そっ、そんな笑わなくたっていいじゃないですか」
「ごめん、ごめん。
村井、背だってあるし顔も悪くないんだからもったいないよ。
流行りの“草食系”じゃ、女はついて来ないわよ」
「そんなんじゃありませんよ」
そう言って彼は、ふてくされてしまった。
その様子がますます可笑しくて、私は必死で笑うのを堪えた。
「は、早川さんこそ、どうなんですか?」
「え?」
「彼氏と、上手くいってるんですか?」
テーブルの上にならぶ料理に視線を泳がして、村井は聞いてきた。
「な、なんで……」
聞き返そうとしたその時。
携帯の着信が私の言葉を遮った。
私の携帯が震える。
画面には、“廣瀬さん”の文字。
どうして、こんなときに。
「…出なくて良いんですか?」
「えっ、あ、うん…」
ハッとして、慌てて携帯を手に取った。
だけど手に取った瞬間、着信は切れた。
いつも5コールで切る。
それが彼の合図。
「…“廣瀬さん”て」
村井が口を開く。
「営業2課の、廣瀬部長のことですよね。
早川さん、親しいんですか?」
「う、うん…私が入社したばかりの頃に、うちの支社にいたから。
私にとって最初の上司なの」
「へぇ、そうなんですか」
とっさの説明に、村井は特に疑問を持たなかったようだった。
私は細く、息を吐く。
「たまに、飲んだりとかするんですか?
廣瀬部長と」
「え?」
「…すみません。
俺、実は見たんです。
数ヶ月前、早川さんと廣瀬部長が、2人でホテルから出てくるとこ」
息が、止まった。
店内の騒音までも、遠くなっていくようだった。