“愛してる”の、その先に。
「なんていうか、その…
早川さんと廣瀬部長、親し気な雰囲気だったから」
腕を組んだことも、
ましてや手を繋いで歩いたことだってない。
2人きりでご飯を食べたことも、
どこかへ出かけたことだってない。
部屋に入った途端に、
彼は私を後ろから抱きしめる。
抱きしめて、胸をまさぐりながら乱暴にキスをする。
普段の彼からは想像もつかないくらい荒々しく、
私を求めてくる。
「…やぁね、たまたまよ。
きっと取引先との接待で、ホテルの最上階にある中華料理店に行った時ね。
その日は廣瀬部長の他にも、榊マネージャーも一緒だったわ。
親し気って、変な言い方やめてよ。
廣瀬部長と私が付き合ってるとでも思ったの?
廣瀬部長は結婚されてるし、中学生になる娘さんだっていらっしゃるのよ?
そんなわけないじゃない」
自然と早口になって、逆に怪しまれるのではと思った。
「…そ、そうですよね。
すみません、変なこと言って。忘れてください」
だけど村井は疑う様子もなく、そう言って慌ててビールを飲み干した。
私は心の中を見透かされそうで、
それからずっと、村井の目を直視できなくなった。
私の中にあるこの感情は、誰にも知られることのなくそっと葬り去るつもりだった。
もし村井のような、純粋で曇りのない人間に知られたら、
きっと彼は幻滅するだろう。
信じられないかもしれない。
理解出来ないかもしれない。
でも、それで良い。
こんな感情、理解したって何の得にもならないのだから。