“愛してる”の、その先に。


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ーーーーーーー…





「お疲れー。じゃあお先に」

「お疲れさまでした」


「早川も早く帰れよ?電車止まらないうちに」


「はい、お疲れさまでした」




今年に入って初めての台風が、この地方に接近していた。

昼過ぎから雨が降りだし、今じゃ外は大荒れだ。

ニュースではこれから夜にかけて最接近すると伝え、

電車が止まる前に、社員は次々と定時で帰宅していった。


私は地下鉄なので、交通の弁にさほど影響はない。

しかし外の様子を見ると、駅までの道のりでびしょ濡れになりそうなほどだった。



ビルの1階に降りると、出入口のところで村井の姿を見つけた。


「どうしたの?帰らないの?」


私はその後ろ姿に声をかける。


「早川さん…

いや、すごい雨だから…

もう少し待ってたら少しはおさまるかなと思って」

「何言ってるの。これからひどくなる一方なんだから、早い内に帰りなさいよ」


「だってこんな風強いんじゃ、傘折れそうじゃないですか」


「いいじゃない、単なるビニ傘なんだから」


だけど村井の言うとおり、外はすごい雨と風だ。

その中へ無防備に傘をさして一歩踏み出すことに躊躇する。



「…タクシー呼ぶ?

村井も地下鉄でしょ?」


会社から駅まで徒歩5分の道のり。


そのたかが5分さえ、長く感じるほどだ。

「えぇ?!そんな、もったいないですよ!駅まで走ればすぐなんですから」


「こんな中を走れるわけないでしょ!

あ、ほらちょうどタクシー来た!

私が出すから、村井も乗っていきなさいよ。どうせ駅に向かうんだから」



遠くからこちらに向かって走ってくるタクシーに手を上げると、

ビルの出入口から歩道を挟んだ道路脇に止まった。



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