“愛してる”の、その先に。
「…あの日…
早川さんが酔って潰れて、俺が運んで2人でホテルに行った日…
あの時俺本当は、内心“すげーラッキー”って思って、
酔って寝ちゃった早川さんを襲おうとしたんです」
私は驚いて村井の顔を見た。
村井は冗談を言ってる様子もなく、その瞳は真剣だった。
「早川さん酔ってたし、無抵抗だし、
無理矢理でもヤっちゃえば…
既成事実さえ作っちゃえば、早川さんも少しは俺のこと、男として意識してくれるかなって思って…
もし抵抗されても、廣瀬部長とのことを皆に言いふらすとでも言って、脅すつもりでいたんです。
…最低な男でしょ?俺って」
そう言って村井は、どこか自嘲的に笑った。
「無抵抗な早川さんの身体をぎゅって抱きしめて、
首筋に顔をうずめて匂いをかいでたら、なんかもうたまらなくなってきて…
もっと触りたくて、早川さんの裸見たくなってきて…
やっぱりダメだよなって何度も思ったけど、
そうしてただけで俺、勃ってきて…
そしたらその時、早川さん寝言で、
“廣瀬さん”って呼んだんです。
しかも、涙流しながら…」
確かに私はあの日、少しヤケになってお酒を飲んだ。
廣瀬さんと別れて、自分の心がどこにあるのかがわからなくなって、
気持ちなんて最初からないと思っていたのに、まるでぽっかりと穴があいてしまった気分だった。
その穴を認めたくなくて、
自分がまさか、彼という存在を失ったことで傷付いているなんて思いたくなくて、私は目をそらしたんだ。
「それ聞いて、
あーやっぱりそうなのかぁー、
そっかぁーそうだよなぁーって…
なんかもう、すげーショックで…
本当は早川さんと廣瀬部長とのこと、信じたくなかったから…
だから、一気に落ち込んだんです」
村井は本当に落ち込んだように、首をうなだれた。
その様子が、なんだか可笑しかった。