“愛してる”の、その先に。


本当はこの会社の伝統みたいなもので、入社した新入社員が仕事よりまず覚えるべき役目。


“片付けは仕事の原点。


仕事をするために綺麗にするのではなく、

自分のために綺麗にせよ。
それが仕事の成果に繋がるのだから”


それは、我が社の初代社長からの教えだった。





私のいる支社ではもう何年も新入社員が配属されず、

8年目とはいえ支社で一番若輩者だった私が、ずっとその役目を担っている。

今ではもう、私の生活の一部。


これをしないと、1日が始まらない。





「あ、早川さん…おはようございます」


「おはよう」



その時、村井が現れた。


村井は数年ぶりに、今年この支社へと配属された新入社員だ。



配属されたばかりの頃に一応この役目については教えたが、

ここでは私の役目であるから、村井はやらなくていいと言った。





「あとどこですか?俺もやります」



「じゃあ外の放棄がけ、お願い」



だけどたまにこうやって、早く出勤してきては一緒に手伝ってくれる。




「おはようございます」

「おはよ〜す」


始業が近づくにつれ、続々と社員が出勤してきた。


私はデスクにつくと、パソコンを立ち上げた。

ちらりと、斜め向かいのデスクに座る村井へと目配せする。




“あれ”から、なんとなく村井の顔を直視出来なくなった。



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