“愛してる”の、その先に。
普通に接してるつもり。
村井には気付かれていないと、思う。
…だけど、怖い。
村井の、私を見る目が。
この前、私は村井を“2人で飲もう”と半ば無理やり誘った。
理由は“あの日”の詫び。
散々迷惑かけたし、今夜は私のおごり。
あと、ホテル代を返すためだった。
後輩に出してもらっては、私のメンツが立たない。
「…じゃあ、お言葉に甘えて」
狭い大衆居酒屋で、私と村井は乾杯した。
村井は生中。
私はウーロン茶。
しばらく、酒は飲まないと決めていた。
「別に気にしなくて大丈夫ですよ?
俺も大学の時なんて、こんなことしょっちゅうありましたから」
「ふーん。
それで酔って女のコとホテル行っちゃったり?」
私はわざとからかった。
「残念ながら、それはないんです。
いつもヤローばかりで飲んでたから、女なんていなかったし。
…あんなことしたのは、早川さんが初めてですよ」
村井の声がだんだん小さくなっていった。
うつむきがちに、耳を赤くしている。
お酒のせいか、
それとも単に照れてるだけなのか…。
ホテルに行ったとは言え、
別に何もなかったのに。
「彼女は大丈夫だったの?
うまく説明出来た?」
「えっ?」
村井が驚いて顔をあげた。
私は平静な顔をして、刺身を口に運ぶ。
「彼女、いなかったっけ?」
「…いつの話してんすか。
別れましたよ、結構前に」
「あ、そう…」
大学の頃から付き合っている彼女がいると、他の社員がからかっているのを耳にしたことがあった。
村井は困った表情で、
だけど顔を赤らめてどこか嬉しそうに笑っていた。