Perfume...
私をじっと見つめたままの彼がポツリとつぶやいた。


「彼と一緒?」

「……ここの食事をおごってもらったら別れるわ」

「それはやめた方がいい」

「……え?」

「僕の持論だけど、感情と味覚は直結してるからね。もし、彼とこのまま食事を続けてそのあと別れるようなら、おそらく君はここの食事は一生口にしたくないと感じてしまうだろ?」


確かに……。

でも、もしそうだとしても、別にいいと思う。


「……別に……いいじゃない。どうせ、自分のお財布でこんな高価な場所で食事なんてもうすることもないもの」

「なるほどね。だけどそれは君の時間がもったいない」

「……え?」

「別れてすっきりしてから美味しいものを味わった方が、ずいぶん価値があるとおもうけれど」


そんな考えしたことなかった。

彼が言っていることは正論だ。


「ひとつのことが価値ある時間になるか、思い出したくない時間になるかは、自分次第だから」


私の身体が、彼の言葉をまるで乾ききったスポンジみたいに吸収する。


「……悔しいけど、その通りだわ」

「良かったよ、これからの僕のパートナーが賢い女性で」


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