Perfume...
「いや、石野さん、それは……」
「ウソなんですか?!ユメの……ファーストキス……あげたのにっ!!」
「え……?!マ……マジで?」
「責任とってください!!」
ああ、これだから男ってバカ。
浮気するなら相手を選べって。
会社の地下資料室で、ゴムもなしにやっちゃおうとしてた22の女が、キスひとつしたことないわけないでしょう。
ちょっとはマシな男だと思っていたのに。
「チヒロ!!待てって!!」
「ごめん、冷めた。石野さん、私のお下がりでよければどうぞ。じゃあね」
バタンと扉を閉めて、勢いよくそこを立ち去った。
ここは神聖な資料室。
この資料室を私と一緒に作り上げた男、堤リョウは、俗にいうヘッドハンティングで半年前この会社を辞めて、NYへ旅立った。
彼の最後の言葉はとてもかっこよかった。
『チヒロからやりがいを取り上げてしまうような、男になりたくない。お互い、それぞれの道でがんばろう』
ただ、彼に追いつきたくて仕事に夢中になっていた。
彼に認められたくて、どんな仕事にも挑戦した。
ピンヒールで颯爽と歩く練習をした。
上品な大人メイクを覚えた。
誰よりもスマートに名刺の受け渡しができるように、鏡の前で練習をした。
ただ、彼に認められたかっただけ。
欲しかった言葉は『一緒に行こう』だったのに、笑って最後まで大人の女を通した。
『応援してるわ』って。
そんなとき、イサムに声をかけられて、寂しさを埋めた。
それなのに、よりにもよって、そのイサムに資料室を汚された。
怒りが込み上げて、もう一度資料室に引き返した。