Perfume...
「ユ……ウ……」
小さくつぶやくと、低い声で彼が言った。
「エレベータに乗るまで我慢しろ」
ぐいぐい手を引かれてやっと乗り込んだエレベータで、彼がキスをした。
息ができないくらいの、濃厚なキス。
「どうかしてる、チヒロ」
「……ユウ……くん」
「あんな男とキスするとか」
もう一度。激しいキスをする。
「つーか。『いってらっしゃい』のキスもなかったし」
「……え」
「明日から、必ずしろよな」
思わず言葉にしてしまった。
「は?」
「約束だから」
、ていうか。
私たちは……新婚さん?
「あのさ。……言ってる意味わからない」
「別に意味とかないし」
私たちの部署のあるフロアについて、エレベータの扉が開いた。
「チヒロは俺のもの」
父とか母の前で『チーちゃん』と呼んでいた彼とは別人レベルで違う。
『ハンバーグ』とはにかんだ顔とも全然違う。
「今日こそ最後までする」
「最後?」
「セックス」
「……はっ?!」
「あの男とは最後までしたことないだろ?」
いや。
あるけど?……と言おうとしたら。
「チヒロが『ちゃんと』イッて、俺もイクまでするってこと」
あ、そういう最後ね。
……って!!
なんか、負けたくない。
「ヤレるもんならヤッテみなさいよ!!」
不思議。
こぼれそうだった涙は、どこにもなくなっていた。