私の好きな人は駐在さん
「一階です。」
感情のない平坦な声と共に、ドアが開き、ばっと私は吐き出された。
一階のロビーに降り立ったのだ。
黒い石調の、シックな床が、蛍光灯で照らされより一層艶やかさを増している。
カツカツ、とふぞろいで頼りない音を床面にパンプスで奏でながら、私はそのままさ迷った。
「トイレ……トイレ……」
半ばもう呻き声のように、私は声を漏らした。
辺りを見回してみるも、トイレらしき場所は見当たらない。
だんだんと気持ち悪さのボルテージは、容赦なく最高潮に達しようとしていた。
うっ、ヤバイ!と思った私は、本能だろうか、咄嗟に自動ドア目掛けて走っていき、暗闇の中に飛び出した。