私の好きな人は駐在さん


「はあ……。」

どれだけの間、さまよっただろうか?

トイレにいこうとしただけなのに、最早今自分が、どこにいるのかさえわからなくなってしまった。今、自分の回りには、ぼんやりと辺りを照らす街灯と、黒く静かに佇む街路樹しかいない。しん、と静まり返った暗闇のなかを必死になんとか二本足で進み続けていた。
今何時なのかすら分からない。頭がガンガンする。なんとか今の自分の状況を理解しようと頭を働かそうとすると、ぼやっとしてしまって、到底不可能だ。

とりあえず、今わかることは……リバースしたいってことと、辺りが真っ暗だということだけであった。


「はあ……もう、駄目。」

手近にあった木に手をついてもたれかかり、大して距離も歩いてないし、走ってもないのに、何故か弾んだ息を整えようと、立ち止まった。
冬がもうそこまで来ている。そのせいか、はたまた他にも何か理由があってなのかはしらないが、身を刺すような冷たさが身体を覆う。
特に、足回りが、寒い。
もう、駄目だな……。頭の中で、誰かが呟いた。その瞬間、私の体は二本足では支えられないくらい急激に鉄のように重くなり、身動きがとれず、その場にへなへなと座り込んでしまった。

あー、寒い!でも、動けない。そんなジレンマを感じつつも、ぼんやりしてしまってなにも考えられない鈍い頭をふにゃりともたげた。



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