私の好きな人は駐在さん


「あの……お持ちでないですか?」

尚一層、訝しげな表情を募らせた、その美しい瞳の持ち主が、私に再度問いかけた。
その一言で、私は、ふと我にかえる。

「はっ……あ、ありますよ!!えっと……えぇ……あ、あれ?!鞄が……ないっ!」

いつも持っているはずの、オレンジの革バッグがない。
それもそのはず。会社から、トイレを目指してさ迷いでてきてしまったのだから、そんなものもっているはずはない。と、いうことで、必然的に保険証は、今手元にはない。その事実を知った瞬間、いよいよへなへなと、うつ向いてしまった。
あ!そうだ。
しかし、社員証なら、あるはず!
私は、ポケットをまさぐって、首にかける長い紐を通した、カードケースに入った社員証を警官の前に差し出した。

「わあ!あの慶徳社の社員さんですか?」

彼は、身分証を手に取り、まじまじとそれを見つめながら小さく驚嘆の声をあげながら、いった。
と、いうのも、私の勤める慶徳社は、日本でも有名な出版社の一つである。
名前くらい聞けば誰でも知ってるし、手広く扱っている書籍や雑誌、マンガなどを展開している。

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