私の好きな人は駐在さん
「でも……じゃあ、何故そこの社員さんが、そんな格好されてるんです?」
警官は身分証を私に差し戻しながら、一番つかれては困る核心部をなんのためらいもなくついてきた。
「あ、あの、こっこれはですね、」
私は、口ごもりながら必死に弁明しようとした。
「そういった格好をして出歩かれると困るんですよ……本当の婦警さんかと勘違いなさる方もいらっしゃるかと思いますしね。」
「あの!その件に関しては本当に申し訳ありません!!この通りですっ。」
私は、頭を深く深くさげ、机に頭をガンガンとぶつけんばかりに下げ続けた。
申し訳ない気持ちと、もう顔から火がでそうなくらいに恥ずかしい気持ちが入り交じって、そこからぽっ、と消えたしまいたいくらいだった。
「あの、わが社で、毎年ハロウィーンの日に、仮装パーティーが、開催されて……それで私は、無理やりこういった格好をさせられたあげく、自分の私服を取り上げられてしまったんです。それから、お酒を少々たしなみましたら、何だか気持ち悪くなって……トイレにいこうとしたら、何故か外に出てきてしまったみたいで……本当にすみません!!」
また深く、頭を下げた。もはや屈辱的で、酔いなどとっくに覚めてしまっていた。
「なるほどねぇ……だから鞄も何ももってらっしゃらず……この格好……」
そういって、私の無様な醜態をまじまじと見つめた。
「すみませんほんとに……あっあの、恥ずかしいのであまり見ないで……ください……」
私は、おそらくこのまま恥ずかしさのあまり、融点を優に通り越して、気体となって空に舞い上がっていってしまうのではないかというほどに、体温が急上昇しているのを感じていた。
「……わかりました。では、誰か連絡つく方に電話してもらって、その方にも確認取れましたら、一緒に帰って頂いて構わないので。」
そういうと、警官は、手早くさっと目の前の書類を片付けて、立ち上がった。
「は、はいっ……!」
一刻も早くこの場から消え失せたかった私は急いでポケットをまさぐり、携帯電話を取り出して、アドレス帳から由紀の連絡先を探した。あ、履歴から探した方が早かったかな、と思っているうちに見つかったので、そのままダイヤルした。
何回かの呼び出し音の後に、由紀が不機嫌ともいえない口調で発せられた第一声は、
「あんた、いまどこにいるの?!トイレ長すぎでしょ?!どこのトイレ行ったの?!ねぇ!シンガポール?!」
あまりの音量に電話を耳から瞬時に遠ざけた。
「あのね、落ち着いて聞いて……」