私の好きな人は駐在さん


取材内容を記事におこして、一段落ついたところで、私は椅子に座ったまま、後ろにのけぞって、伸びをした。それに併せてギシギシと椅子の背もたれが軋む。

机の上に置いている携帯のランプが赤色に光っている。メールの受信を示す色だ。携帯に手を伸ばし、左片手でさっと開いた。

友達フォルダに一件。あ、もしかしたら由紀からかな?
そう思いながら開いてみると、やはり由紀からのメールのだった。

「仕事終わったから、下のエントランスで待ってる。」

えっ?!今何時?!
咄嗟に、左手にはめた腕時計に目をやった。ちょうど7時になろうとしていた。
由紀からのメールの受信時間を確認すると、6時47分だった。
良かった。ついさっき来てたんだ……
ふぅ、と安堵の溜息をついた。待たせていたら悪いと思ったからだ。
それから私は急いでパソコンをシャットダウンし、荷物をまとめた。
席を立ち、ゴムで軽くまとめていた髪をほどいて、まだ机に向かって仕事をしている人達に、お疲れ様でした、お先です!と声をかけながら、エントランスへと急いだ。

すっかり髪も伸びたなあ、と、エレベーターの中で、少し傷んだ毛先を見て思った。
去年までボブだった私は、なかなか美容院に行く暇がないという理由で、髪を切らずにいたら、知らないあいだにもう、胸のあたりまで髪が伸びていた。
髪色も、染めてはおらず、地毛のまんま。でも、生まれつき髪の毛の色素の薄い私は、美容院でも染めてますか?と聞かれるほど茶みがかっていた。

「一階です。」という、エレベーターの電子的な女性の声の通知とともに、私は、一階に降り立った。


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