私の好きな人は駐在さん
夜道にはくれぐれもご注意を。
冬がひょっこり顔を出したかと思えば、あっという間にぐん、と首を伸ばしてきた。
もうすっかり冬である。
吹き付ける風は指を冷やし、いよいよマフラーがほしいくらい。
会社の壁にかけられたカレンダーも、もう12月を示していた。
年の瀬……ふだんでも十分忙しいこの出版業界、年末年始はさらにあわただしくなる。
私も新しい特集のために、てんやわんやである。寒いなんて、言ってる暇もないくらい。
あれから、あの駐在さん……渡部さんには、会えたり、会えなかったり。
駅から会社に行く途中にちょっと中をのぞいてみたり、帰りがけにのぞいてみたり。
でも、当然毎日会えるはずもなく。それにあったところで言葉を交わすなんてこともなく。
週に何度か、帰りがけにみることが多い。渡部さんは仕事をしていて気付いていないことが多いけれど、たまに目があって、会釈はしてくれるくらいの間柄になった。
私としては、信じられないくらい素晴らしい進歩である。
できれば、色々話したいとか、毎日会いたいとか、思うけれど、でも逆にこれくらいの方が、自分を甘やかさなくていいというか、仕事をもっと頑張れる感じがした。
会えることをご褒美に。頑張れば、きっと会える。なんて。
格段に毎日が、色づいて、そして魅力的に過ぎて行った。
由紀にももちろん報告した。
由紀は、全力で喜んでくれて、全力で応援してくれている。
別に付き合ったりしているわけではないのに、自分のことのように喜んでくれる。
でも、
「もっと積極的にいかなきゃ。今度交番に押しかけちゃえば!?」
なんて、私のじれったさにかなりやきもきしているみたい。
奥手な私には、もうこれが精一杯なのよね。
そんな、肉食系のかっこいい由紀は、結婚まであと少し。12月24日に結婚式をあげるという何ともうらやましい限りのシチュエーション。
ずっと前から予約を取って、今も少しずつ準備しているみたい。
でも、あまり大きなお披露目はしないで、親族と、仲のいい人だけを数名呼んで、お食事会みたいな感じにするみたい。なんだか由紀らしい。
きっと、ウェディングドレス姿の由紀は、神々しいくらいに美しいんだろうなぁ。
普段からとても美しくって、仕事もできる、うちの部じゃ、できるアネゴ上司!!って存在で。本当にあこがれちゃう。
「そっかぁ、そろそろクリスマスかぁ……」
私は会社のデスクに頬杖をつきながら、ぽつりとつぶやいた。