私の好きな人は駐在さん
「い、今は、今回のは、クリスマス特集で、ちょっとしたスポット紹介やグルメの紹介で……私はこういったグルメ関連のこととかを扱うことが多いんです。」
「そうなんですか!じゃぁ、美味しいお店とか詳しいんだろうなあ。よかったら、また今度、教えてください。」
そういって、より一層優しい笑顔を私に向けた。
暗闇だからか、彼の目がより一層黒々しく大きく、まるで、子犬のようだった。きっと年上なんだろうけれど、愛らしく思えた。
「あっ……はい、ぜひ。そんなに詳しくは、ないんですけれどね。」
あまりの恥ずかしさに、私はこう答えるだけで精いっぱいだった。
きっと横に由紀がいたら、肘で私の脇腹をこついて、「何してんの!次そのお店に一緒にいく約束をとりつけなさいよ!」と言われているところだろう。
そうしたくても、そんなこと、できっこない。
断られたらどうしよう。がつがつしてると思われたらどうしよう。
それになにより、そんな饒舌に口が動かない。
まるで、なめらかに動けないような魔法にかけられているかのごとく。
「あ。」
彼は何かを思い出したかのように口を開いた。
「ここ最近、このあたりで、不審者が見かけられていて、複数件通報が入っているんですよ。ですから、どうか、お気をつけてお帰りください。特に夜道は暗いですから。
夜道には、くれぐれもご注意を。」
では、お疲れ様です!と言って、彼はまた巡回に行くのだろうか、左手にある路地の方へと歩いて行った。
こんなに外は寒いのに、なぜだろう。
私の心の中は、燃え盛る暖炉のようにあったかいよ。
ふぅーっと細く長く息を吐く。
吐いた息が白く長く、天へ昇って行った。
恍惚とした気持ちで、私は駅へと急いだ。