私の好きな人は駐在さん
駅まであと数百メートルほどになったであろうか。
急に街灯が少なくなって、なんだか闇が一層濃くなった気がした。
浮かれていたとはいえ、少々寒さでよいが冷めてきたせいか、少し怖くなって、足を速めた。
周りは波を打ったようにしんとしており、町全体が眠りについたかのようだ。
自分の息遣いと、ヒールが地上を踊る音だけが辺り一面に響き渡る。
もう夜も遅いし、ちょっと急ごう。
首にファーを隙間なく巻きなおしたとき、なんだか、後ろに人影を感じた。
そういえば、さっきから、足音が聞こえている気がする。
耳を澄まして、後ろの様子を振り返らずに、伺った。
確かに、だれか、後ろをついてきている。
どうやら、この気配は気のせいではないようである。
あ、でも、その人もたまたま行く方向が同じなだけかもしれない。
そう思って、私は、立ち止まってみれば、先に追い越してくれるだろう、と思って、その場で携帯を確認するふりをして、立ち止まってみた。
しかし、ともに、その後ろから聞こえていた足音も止まったのである。
一向に抜かそうという気配もない。
この時、ようやく事態が呑み込めた。
何かが、おかしい。
この状況、あまり、芳しくないようだ。