私の好きな人は駐在さん

そう思った瞬間、こんなに寒いのに、変な汗が一筋すっと、背中へ流れた。

どうしよう、こういう時、どうしたらいいんだろう。
でも、考えすぎとか、勘違いかもしれないから、警察に電話とかするわけにもいかないし……
そもそも、電話したことなんてないから怖くてできやしない。

とりあえず、足を先へ進めた。先ほどより格段に歩調を速めて。

それに伴って、また、後ろから足音が聞こえ始めた。

やっぱり、おかしい。
それは、断言できる。

変な汗が顔に浮かんできた。
夜風は冷たいはずなのに、息もこんなに白いのに、体はパニックで熱い。
どうしよう、どうしよう、どうしよう…

この5文字が呪文のように、頭の中を、駆け巡った。
その時、


「あの~、すみません。」
そういって、後ろから声が聞こえた。

私は思わず体がびくついて、その場に一瞬固まってしまった。

振り向くべきか、振り向かないべきか。
かなり迷った。しかし、パニック状態に陥っている頭で、そんなことが冷静に判断できるわけがない。

とにかく、駅へいかなくては!!
そう思って、振り向かないで、足を進めることにした。
小走りで、駅まで急ぐ。

すると、
「あれ??ちょっと、そこのおねえさん、待ってよぉ。」
といって、その声の主も小走りで追いかけてきた。


やだ!!!なにこれ!!!
もう、半泣き状態である。
ひぃひぃと、声にならない小さな悲鳴をあげながら、必死に逃げた。
人間とは、本当に恐ろしい時は、声もでないし、その人影を見て確認する勇気すらでないものである。
本当に字のごとく、「臆病」に陥ってしまっている私は、顔をゆがめながらとりあえず、自分の出せる力を全力で振り絞って、道を駆け抜けた。

お願い…!!無事に…!!無事に…!!


そう思ってさらに走る速さをはやめた時―――


あっ……



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