私の好きな人は駐在さん


すべてが、スローモーションだった。
ヒールが、きちんと地につくことができずに、私の足は変な方向にねじれ、そのままゆっくりと、地面に突っ伏していく一連の流れが、私にもしっかりと、実感できた。


地面に倒れたと同時に、恐ろしさが入り混じった感情が一気に押し寄せてきた。


「あらあら、おねえさん、大丈夫~?そんなに無視して走って行っちゃおうなんてするからだよ?ん?おじさんが助けてあげるからねぇ……」

声の感じからして、4,50代くらいの男だろうか。
恐ろしくてその姿を直視できなかったが、だんだんとこちらへ近づいてきていた。
相手も走ったからか、少し上がった息遣いを、はぁはぁと闇に響かせながら、やってくる。

もう、終わりだ。
そう、悟って、目を、ギュッとつぶった。





その時






「どうしたんですか!?」



どこからともなく、なんだか、聞き覚えのある声が聞こえた。



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