私の好きな人は駐在さん

恐る恐る、目を開けて、声の聞こえた方に目をやった。
男が近づいてきている反対側からその声はきこえた。
こちらに向かって走ってくる足音とともに、背の高いシルエットが闇に浮かんだ。

「大丈夫ですか!?」
そういって、その男性は転んでいる私のもとにひざまずいた。
その時、その男性と目があい、はっと、息をのんだ。

なんと、その男性は、渡部さんだったのである。
あまりの驚きの事実の連続に、もはや頭はついていけず、ショート寸前だった。

男性は、立ち上がると、不審な男性の方に向き直った。

「あなた、ここで、何してるんです?」
そういって、男の方へ、ゆっくりと歩きだした。

もうすぐそこまで来ていた男は、彼がにじりよるとともに後ろへ後ずさった。

「今、彼女に、何しようとしてたんですか、って聞いてんですよ。」
少し、語尾を荒げた、彼の声が闇に響く。

「い、いや、べ、別に何も、お、おれはただ…その御嬢さんが、倒れたもんだから、た、助けてやろうと……な??」
明らかに上ずった声で男が答えた。
一瞬うっすらと、光に照らされた男の顔が闇に浮かんだ。
男は50代半ばほどの、メガネをかけた、髪の薄い見たことのない男であった。
それとともに、渡部さんの顔も同時にうっすらと見えたが、今まで見たことのないような、鋭くて、誰もをひるませるような、とてつもなく恐ろしい顔つきをしていた。今までのあの穏やかな、微笑をたたえたような彼とは同一人物だとは思えなかった。

「どうも、そうは見えなかったなぁ。ちょっと、お話聞かせてもらってもいいですかね?」
なおも男ににじり寄る彼。

「はぁ!?ふ、ふざけんなよ!!なんで俺がそんな、話する必要があんだよ!?」
弱腰になっていた男が、急に逆上し始めた。


その瞬間――




< 62 / 67 >

この作品をシェア

pagetop