私の好きな人は駐在さん
「ふざけてんのはお前だろうがよ!!」
強く、勢いよく、その男の胸ぐらを彼がつかんだ。
彼のその低い怒鳴り声はこの静かな闇に大きな波をおこし、響き渡った。
「おい、今から、警察呼ぶから。うごくなよ。」
胸ぐらから手を離し、素早く男の手を男の背中でかためながら言った。
ほどなくして、パトカーが来て、男は連れて行かれた。
渡部さんは、到着した警察官らしき男の人に状況を説明したようで、そのやりとりが終わったとみられたころ、パトカーは男を乗せて走り去っていった。
パトカーを見送った渡部さんは、小走りで私のもとへ走ってきた。
恥ずかしながら、この一連の流れの間、私は地面にへたり込んだまま、放心状態だったのである。
あまりにいろんなことが一気に押し寄せてきすぎて、何も考えられなかった。
「ごめんなさい、今までほったらかしで。」
そういって、私に手を差し伸べて、
「どう?立てます??」
と尋ねた。
まず、その差し伸べられた手を握るかどうかにまずドギマギしてしまって……でも、無視したり躊躇したりしている場合でなかったので、私は、おずおずと、その手を右手でゆっくりと握った。
冷たい夜風にあたっていたからか、ほんのり冷たかったが、完全に冷えているというわけではなく、芯はあったかかった。
見かけによらず大きな手で、とっても柔らかくて、すべてをほんのりと包み込んでしまえそうな手であった。
もう、心臓が口から飛び出しそうだった。
私は、足に力をいれて、立ち上がろうとした。その瞬間
「いっ……!!」
右足首に激痛が走った。
どうやら、あの、バランスを崩したときに捻挫したようだ。
「だ、大丈夫ですか?!」
そういって、彼はとっさに私の体を器用に支えた。
ち、近い……!
と、いうか、もう、体が触れ合っている。
もう、何が何だか、わからなかった。
このまま頭に血がのぼせ上って、意識を失ってしまうんじゃないかと思った。
「とにかく、腕を、回しても、大丈夫ですか?」
そういって彼は、私に確認をとって、私の腕を彼の肩に回した。
私は、ただただ、コクリ、と頷いて、あとはもうされるがままになっていた。
「大丈夫ですか?歩けそうになさそうですね…これは、捻挫してるんですかね…」
そういって、彼は私の足を見つめた。