いつか、眠りにつく日
「何言ってんだよ。くやしくないのかよ、お前だけ死んだんだぞ」

 首をかしげて考えてみたが、私は言われた意味が理解できなかった。
「だって、亡くなる人が増えれば悲しむ人も増えるだけでしょ。くやしくなんかないよ」

 男は何かに納得したかのようにゆっくりとうなずく。
「お前って、ヘンなやつだな」

 小さな庭に通じる窓に目をやると、先ほどまでの煙はもう見えなくなっていた。

「なんか実感ないな、死んでしまったなんて。こんなにリアルに感じるのにな」

 蝉の声が遠くで聞こえている。

 台所では母親が洗い物をしている。

「お母さん、あんなに疲れた顔してる・・・」

「娘が死んだんだから、そんなもんだろ」

 ふと、涙腺がゆるみ視界がぼやけた。





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