いつか、眠りにつく日
「お母さん、ごめんね」
涙がぽろぽろと落ちた。まさか自分が先に逝くなんて思ってもみなかった。

 母の姿は涙でもう見えなくなっていた。唇をかみしめても嗚咽がこぼれる。

 また嫌味を言われるかと思ったが、男は黙ってそっぽを向いてくれた。

 しばらく泣き続け、ようやく落ち着いてくると私は男に、
「ありがと。もう大丈夫」
と伝えた。先ほどまでの寒さももうない。

「そうか」
そっけない言葉だが、今の私には心地よかった。

「幽霊でも涙は出るんだね」

「腹はすかないけどな」

 そんなものなのか、と納得をする。

「もう違う世界に連れていかされるの?」

 男は立ち上がると窓から外を眺めた。
「いや、まだだ。これからお前には、あっちの世界に行くための準備をしてもらわないといけない」






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