いつか、眠りにつく日
 口が勝手にしゃべっているような感覚。

「もう、誰も信じられないだろう?」

___信じられない

「はい・・・」

 ふと、視界が暗くなったような気がして私は竹本を見上げた。

 笑顔の竹本の顔は徐々にゆがむと、口が鈍い音をたてて裂けはじめているところだった。

「もう、全部忘れたいじゃろう」
長い舌が口から垂れ下がり、目は赤く血走っている。身体はどんどん膨れ上がり、土色に変化してゆく。視線がロックされたように離せない。

「はい・・・」
魔術にかけられたように、私の口からはそれしか出てこない。

「お前はおいしそうな子だよ。私が食ってやろう。絶望にさいなまれた人間は大好きだ」
もう竹本の声は老婆のそれではなかった。地響きのように重低音の声を出す口からは臭気が強く漂っている。




< 45 / 264 >

この作品をシェア

pagetop