いつか、眠りにつく日
 陸上トラックが見えてくると、私は大きな木に隠れるようにして見渡した。

「ああ・・・」

 蓮の姿が見える。

 走り終えたところなのか、トラックの真ん中で足を伸ばして座っていた。荒い息遣いが肩の上下で分かる。

 久しぶりに見たその顔が、涙でよく見えない。

 強い日差しの中、たったひとりトラックにいる蓮の姿はこの上なく美しかった。

 息を整え、蓮が立ち上がった。軽く伸びをして、ゆっくりとまた走り出す。

___ここにいるよ、蓮

 それでも彼の前に現れる勇気なんてなかった。

 もし、彼への告白が未練のひとつなのだとしたら私は永遠に消化できないだろう。

 『友達』として過ごした時間が長すぎて、それを壊す勇気なんて出るはずもなかった。



 
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