いつか、眠りにつく日
「すまん、俺には分からない」
いつものぶっきらぼうな言い方ではなく、さみしそうにクロは言う。

「そっか」
私もさみしく言う。


 セミの声が遠くから近くから響く。
 
 相手恋し、と鳴く、泣く、啼く。


「先にもうひとつの未練を解消するか」
しばらくして、クロはそう言うと立ち上がった。

「でも・・・」
そんな気分にはなれない。

 曇った顔の私に気づいたのか、クロが言う。
「蛍、俺にはお前の心は分からない。人間みたいに俺たちは感情が複雑ではないからな。でも、案内人として言うならば、未練は解消した方がいい。たとえ本位ではなくとも、相手を大切に想うのならばやるべきだ。地縛霊になると、その大切な人たちを不幸にしてしまう。だから、相手のためにもやるんだ」

 おばあちゃんが、蓮が・・・不幸になるのは嫌だ。

 ようやく立ち上がった私を見て、クロはうなずいた。



 

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