いつか、眠りにつく日
 それは確かに49日では無理そうだ。

「妻にも申し訳なくって、自分だけあっちの世界に行くなんてできなかったんです。苦しんでいる妻を見るのはつらかったけれど、あえて残る道を選びました」

「そう・・・」
他に何が言えるだろうか。やさしい笑顔の奥にある悲しみがとても深く、黒い穴を開けているかのようだった。

 部屋の奥のほうで引き戸を開ける音がして、
「空ちゃん、そこにいたの?」
とにっこり笑った女性の姿が見えた。

「妻です」
隣で孝夫が言った。

「空ちゃんねぇ、お歌うたってたの」

「そう、ママにもかせてくれるかな」

「うん、いいよ」
 ふたりでソファに腰掛けると、楽しそうに歌いだした。
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