ビロードの口づけ
「あんた、五年前にあいつと何か話したのか?」
「話なんかしていません」
「オレに話してない事があるんじゃないのか?」
「覚えている事は全部話しました」
「そうか」
ジンはフッと息をついて表情を緩めた。
同時に肩を掴んだ手も緩める。
痛みが引いてクルミもホッと息をついた。
ホッとしたのも束の間、いきなりジンがクルミを抱きしめた。
そういえば意地悪の真っ最中だった。
また強引に口づけられたり触られたりするのかもしれない。
それとも、うっかり滲んだ涙を舐めるつもりだろうか。
クルミは身構えて身を固くする。
ところがジンはクルミをきつく抱きしめ、肩の上に顔をうずめたまま動かない。
予想外の状況にクルミは戸惑う。
「あの……、私何か大切なことを忘れているんでしょうか」
ためらいがちに声をかけると、ジンは顔を上げてクルミから離れた。
そして眼鏡をかけながら何食わぬ顔で席を立つ。
「覚えてないならいい」
吐き捨てるようにつぶやいて部屋の隅へ向かうジンの背中をクルミは呆然と見つめた。
「話なんかしていません」
「オレに話してない事があるんじゃないのか?」
「覚えている事は全部話しました」
「そうか」
ジンはフッと息をついて表情を緩めた。
同時に肩を掴んだ手も緩める。
痛みが引いてクルミもホッと息をついた。
ホッとしたのも束の間、いきなりジンがクルミを抱きしめた。
そういえば意地悪の真っ最中だった。
また強引に口づけられたり触られたりするのかもしれない。
それとも、うっかり滲んだ涙を舐めるつもりだろうか。
クルミは身構えて身を固くする。
ところがジンはクルミをきつく抱きしめ、肩の上に顔をうずめたまま動かない。
予想外の状況にクルミは戸惑う。
「あの……、私何か大切なことを忘れているんでしょうか」
ためらいがちに声をかけると、ジンは顔を上げてクルミから離れた。
そして眼鏡をかけながら何食わぬ顔で席を立つ。
「覚えてないならいい」
吐き捨てるようにつぶやいて部屋の隅へ向かうジンの背中をクルミは呆然と見つめた。