ビロードの口づけ
 夜明けまではほど遠い。
 時間はたっぷりとある。
 あれ以上の恥ずかしい目に遭わされるのかと思うと、クルミの鼓動は先ほどよりも更に激しくなる。

 ふと昼間の母の姿が頭の中をよぎった。
 嫁入り前なのに、愛されてもいない人とあんな事……!
 両親も神様もお許しにならない!


「い……や……」


 この状況から逃れられるとは思えないが、せめてもの意思表示でつぶやいてみる。
 目には涙が滲んできた。


「おとなしくいう事を聞けば優しくしてやる」


 ジンが許してくれる気はないのだと悟り、クルミは観念して目を閉じた。
 ジンはいつものようにまぶたに口づけ涙をぬぐう。
 そして宣言通りに優しく唇を重ねた。

 最初はついばむように軽く小刻みに繰り返されていたキスが、やがて唇を割って侵入した舌が口腔内を這い回り次第に熱を帯びていく。
 それに伴ってクルミの身体も中心から熱くなっていった。
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