ビロードの口づけ
 手の動きも止まり窓の方を注視している。
 クルミもそちらへ目を向けた。
 部屋の中も外もいたって静かに感じられる。

 ジンは小さく舌打ちして身体を起こした。


「続きはお預けだ。何か来た。あんたはここでおとなしくしてろ」


 握られた手が離れていく。
 掌にうっすらと滲んだ汗が、夜気に触れた冷たさに胸の奥を寂しさがよぎる。

 ベッドを下りて窓へ向かうジンの背中をクルミはぼんやりと目で追った。
 ジンは入ってきた時と同様ひらりと外へ出て窓を閉めた。

 クルミはのろのろと身体を起こす。
 ジンが外したボタンを留めながら、胸の谷間についたアザに気付いた。
 先ほどの小さな痛みはこれだったのだろう。

 ジンが咲かせた紅い華。
 クルミの要求にジンは答えずこれを残した。

 心などどうでもいい。
 力の源になる身体だけよこせ。
 そう言われたような気がした。

 ボタンを全部留めてベッドの縁に腰掛ける。
 外を確認した後、ジンはまた窓の外にたたずむのだろう。
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