ビロードの口づけ
 ジンはフンと鼻を鳴らし、静かに警告する。


「立ち去れ。そうすれば見逃してやる」
「ふざけるな!」


 とうとう怒りが爆発したザキは、叫ぶと同時にそばにあった太い庭木を片手でへし折った。


「あの女はオレが五年前から目をつけていたんだ!」


 全身に怒りの闘気をまとい、ザキの姿がゆっくりと変化していく。
 筋肉が更に盛り上がり、身につけた警備服の上衣が裂けた。
 鼻と口元が前に突き出し、露わになった上半身や顔が徐々に真っ黒な毛に覆われていく。

 半人半獣と化したザキは、天に向かって雄叫びを上げ、ジンを目がけて突進してきた。


「ちっ! バカが……」


 素早く身を躱したジンは、伸びてきたザキの腕を掴み軽々と放り投げた。
 地面に背中を打ち付けたザキは、うなりながら身体を横に転がす。
 起き上がろうと手を突いたザキの背中を踏みつけて、ジンは馬乗りになった。
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