ビロードの口づけ
 ザキが噛みついた腕を押さえて、ジンはひとまずホッと息をつく。
 指先から滴り落ちる血を見てコウが心配そうに手を伸ばしてきた。


「すぐに傷の手当てを」
「こんなもん、舐めときゃ治る」


 獣によっては牙に毒を持つ者もいるが、幸いザキは筋肉しか取り柄がない。
 ジンは袖を引きちぎり、血をぬぐった後傷口を舐め始めた。
 そして地面に落ちている警備服の残骸を拾いコウに渡す。


「執事に報告してくれ。警備会社にザキが潜り込んでいる」
「わかりました」

「オレはクルミの側に行く。あのバカ、窓を開けっ放しだ。わかるだろう?」
「はい」


 ジンから一連の状況を聞いたコウは大きく頷いた。
 立ち去ろうとするコウの背中へ向かってジンが一言付け加えた。


「ライにも知らせてくれ」
「はい」


 コウを見送った後、ジンは傷口を舐めながらクルミの部屋へと足早に引き返した。
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