ビロードの口づけ
 実際にどれほどの力を持っているのかは知らないので、もしかすると見た目に反して怪力の持ち主なのかもしれないが。

 そこまで考えてハタと思い出した。
 ずっと会いたいと思っていたので、五年前の獣といえば、あの黒い獣だと思い込んでいたが他にもいた。

 通学路で出遭った熊のような獣。
 姿形もはっきりとは覚えていないが、大きくて熊に似ていた。
 そちらの方なら、怪力でも頷ける。

 もう一方の黒い獣は、どことなくジンに似ている気がした。
 もしかしたらあの獣がジンの父親なのかもしれない。

 夜になり、ジンと別れて寝室に入ったクルミは、ベッドの縁に腰掛けてそんな事を繰り返し考えていた。

 昨日の今日で同じ獣がやって来るとは思えないが、やはり怖くて眠れない。
 自分の身もさることながら、ジンがまたケガを負わされたらと思うと、胸がキュッと締め付けられるような気がした。

 しばらくそうしていると、窓をコツコツと叩く音がした。
 ハッと顔を上げたクルミは窓を凝視する。
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