ビロードの口づけ
 口づけを受けながら、クルミはなんとなく後ろめたさを感じていた。

 ジンに自分の身を全て捧げると自分から言った。
 その事にためらいはないし、撤回するつもりもない。
 自分がジンのためにできる事は、それだけしかないから。

 けれど母の事が気になった。
 ジンは母との間に愛はないと言った。
 彼は母を愛してはいない。
 でも母は?
 本当に快楽だけを求めたのだろうか。
 母も自分と同じようにジンの心を求めているのだとしたら……。

 直接尋ねるわけにもいかない。
 たとえ尋ねる事ができてその通りだとしても、身を引く事ができるとも思えない。

 だとしたら、自分のしている事は伴侶がいるかいないかの違いだけで、母と何も変わらない。
 それが後ろめたさの原因なのだろう。

 なにしろジンの心は誰にも捕らわれていない。
 彼が求めているのは力の源なのだから。

 不意にジンが唇を離した。
 クルミはゆっくりと目を開く。
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