ビロードの口づけ
「ジン、あなたが……!」


 ビロードの光沢を放つ艶やかな毛並み。
 長いしっぽをゆらゆらと揺らし、金の瞳が真っ直ぐにクルミを見据える。

 獣は素早く跳躍し、クルミをベッドに押し倒した。
 五年前と同じようにグルグルとのどを鳴らしながら頬を舐め、はだけた胸の上で足踏みをする。

 肌に触れる毛並みがくすぐったくて、クルミはクスクス笑いながら獣の首に腕を回して抱きしめた。

 全て思い出した。
 五年前に立ち去る間際、黒い獣は一瞬人の姿でクルミに告げた。



—— 必ず迎えに来る ——



 あれは確かにジンだった。

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