ビロードの口づけ
「どうしてもっと早く言ってくれなかったの?」


 半人半獣となったジンが目の前で意地悪く笑う。


「あんたが初めましてなんか言うからだ。きれいに忘れていただろう」

「あなたがそうしろと言ったんじゃないですか」


 ジンは自分の言葉を誰にも言うなと付け加えた。
 いっそ忘れていろと。


「本気で忘れる奴があるか」


 もしかして意地悪だったのは、忘れられていた事にすねていたから?
 そう思うとなんだかかわいい。
 けれどこんな事を言うと意地悪に拍車がかかりそうなので黙っておく事にする。


「あなたになら食べられてもかまわないと思ったの」
「ザキと一緒にするな。五年も待ったんだ。食って終わりじゃ、もったいない」


 クルミの寝間着をはぎ取りながら、ジンが尋ねた。


「どちらが好みだ?」
「どちらも。あなたが好きです」
「それでこそ獣王の妻にふさわしい」


 ジンはニヤリと笑い、クルミを抱きしめ口づけた。

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