ビロードの口づけ
18.獣王の野望
 目を覚ますと傍らに黒い獣が眠っていた。
 組んだ前足の上に頭を乗せ、夜具の上で丸くなっている。

 五年前にはピリピリとした警戒心を全身にみなぎらせていた獣が、今は呆れるほど無防備にくつろいでいる。
 クルミは目を細めて、獣の背中をそっと撫でた。

 もう一度会いたいと思っていた。
 それが叶うなら食べられてもかまわないと。

 その獣にこうして出会い、なめらかな毛並みに手を触れ、抱きしめて、夜を共に過ごした。

 ジンが獣だと分かっても、交わる事にためらいはなかった。
 ためらっていたのは、ジンの心が誰にも捕らわれていないと思っていたから。

 けれど彼は五年もの間、執着とも言えるほどクルミを欲していた。
 それが分かった途端、ためらいは消えた。

 手触りの心地よさに飽きる事なく背中を撫でていると、黒い獣は耳をピクピクと震わせた。
 少ししてのどを小さく鳴らし始めた。
 目を覚ましたのかもしれない。
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