ビロードの口づけ
 クルミがモモカに身支度を調えてもらっている間、ジンは朝食を持って自分の部屋に戻った。
 ライの分も考慮してコウがいつもより多めに都合してくれている。

 ジンが部屋に入ると、奥の寝室からライが顔を出した。
 完全な人型になってジンの寝間着を着ている。
 侯爵家で用意してくれた物だが、ジンは一度も袖を通した事がない。
 獣はよほどの事がない限り、人型のまま眠る事はないからだ。

 朝食の乗ったトレーをテーブルに置き、二人で並んでソファに座る。
 ジンが差し出したフォークを受け取り、ライがニヤニヤと笑った。


「朝帰りとはうらやましいね」
「いつもの事だ。明け方までクルミの部屋を警護している」
「ゆうべはそれだけじゃないだろう? 君の匂いが変化しているよ」
「分かっているなら訊くな」


 人の女と交わって能力を得た獣は、匂いに変化が現れる。
 獣同士ではすぐに分かるので、掟を破った者はすぐに発覚するのだ。

 ジンと同じ皿をつつきながら、ライがうらやましそうにため息をついた。

< 148 / 201 >

この作品をシェア

pagetop