ビロードの口づけ
「屈服? 葬るんじゃなくて?」
「あぁ。バカとハサミは使いようだ。あいつの筋肉は充分に使い道がある」


 ライは楽しそうに目を輝かせる。


「へえぇ。やっぱりおもしろいね、君は。あいつの使い道を見届けたくなったよ」


 訊いても教えてくれないだろうと、ライはそれ以上何も訊かなかった。

 ジンが獣王になったのは、クルミを手に入れるのが目的だった。
 それは獣王になった時点で達成されたようなものだ。
 ジンが直接動かなくても、約束の日が来れば、誰かが献上してくれる。
 ライが以前言ったように、クルミ以上の女は領内にいない。

 クルミを誰にも汚されたくなかったジンは、侯爵家の動向とクルミの身辺を探るため、コウを潜り込ませた。
 領主は獣に家族を奪われた者に甘い。
 それを利用した。

 つかみ所のない性格だが、ライは社交的で情報収集能力に長けている。
 領主の創設した会社に潜り込ませ、領主の力量を見極めた。

 クルミに出会ってジンの中に芽生えた野心は留まるところを知らない。
 ジンの目は、獣社会のこれからを見据えていた。

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