ビロードの口づけ
 半人半獣のライが、頭の上の耳をピクピクさせながら、おどけたように言う。


「それくらいなら、なんとかなるか」
「敷地内か周辺に潜んでいるとは思うけど、どうやっておびき出す?」
「最高のエサを撒いてやる」


 ジンはニヤリと笑い、クルミの部屋の窓を開いた。
 すぐにクルミが顔を覗かせた。

 まだコウは来ていないようだ。
 事情を知らないクルミは緊張感のない表情で、ジンとライを不思議そうに見つめる。

 クルミ本人と部屋から流れ出した極上の甘い香りが、徐々に辺りを満たし始めた。

 ライはうっとりした表情で深呼吸と共にため息を漏らす。
 その時、一陣の風が庭木の枝をゴウッと揺らした。
 極上の甘い香りは風と共に巻き上げられ、辺りに拡散していく。

 ジンはクルミを抱き寄せ、素早く口づけた。


「あいつが来た。あんたは奥に隠れてろ。ポンタに従え」
「あなたも、どうかご無事で」

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