ビロードの口づけ
 すっかり浮き足だっているザキの背後に、ジンは声を上げて笑った。
 その隣でライもおどけたように肩をすくめてみせる。

 ザキは忌々しそうに顔を歪め、背後の者たちは一斉にジンに注目した。

 ジンは余裕の笑みを浮かべ、彼らに提案する。


「おまえたち、今下りるならザキに騙されていたという事で不問にしてやるぞ」


 背後の者たちはあっさりと掌を返した。


「オレは下りる。話が違う」
「オレもだ。獣王と争うつもりはない」


 次々に言い訳を口にしながら、彼らはザキの元を離れ、そそくさと闇の中に消えて行った。

 ザキは苛立たしげに歯がみする。


「ちっ! 腰抜けどもめ」

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