ビロードの口づけ
 人にも獣にも互いに対して偏見がある。
 人と関わり人の文化や習慣を学ぶ事で、獣の人への理解を深めると共に、人には獣が動物とは違う事を理解してもらうのが目的だ。

 獣は人の女を食ったりしたが、食わなくても生きていける。
 人の女と交わる事も、互いに同意の上であれば、いずれは解禁するつもりだ。
 そして長年領主を苦悩させてきた百年に一度の密約も明日を最後に廃止する。

 話を聞いたザキは鼻で嘲笑った。


「そんな事してみろ。女と交わって力を得た奴に、おまえなんか簡単に王座を奪われてしまうぞ」

「オレが力だけで王座に就いていると思っているのか? おまえも人の社会で暮らしていたなら知っているだろう。人の王は力だけで民を従えているわけじゃない。オレがボディガードをしていたのは、領主の信頼を得てオレの話に聞く耳を持ってもらうためだ」

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