ビロードの口づけ
 感情の制御が不得手なだけで、元々頭の悪くないザキは動揺を隠せずにいる。
 それでもジンに同意するのが悔しいのか、力なく反論した。


「人との交流など、そんな絵空事……」

「もちろん簡単な事ではない。だがオレに従うならいずれはおまえの欲した自由を、おまえは手に入れる事ができる」


 すっかり敵意を失ったザキは黙ってジンを見据えた。


「オレに従え。おまえがオレに裏切られたと判断したなら遠慮なく牙をむくがいい」


 ザキは黙ったままジンに歩み寄り、足元に跪く。
 ジンはその横で片膝をついてしゃがみ、俯くザキのうなじに軽く牙を立てて噛みついた。

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