ビロードの口づけ
20.約束の日
 夜明け前、父が屋敷に戻ってきた。
 今日は百年に一度の約束の日。

 夜明けと共に契約期間終了となったジンは、父にいとまの挨拶をする。
 てっきりその場で最高の女を指定するのかと思ったら何も告げずに、母やクルミにも軽く会釈をしただけで、あまりにもあっさりと屋敷を後にした。

 真夜中に怪力の獣が再びやって来た事をジンに告げられた。
 クルミと母、屋敷内の女たちは、ジンの指示でコウに誘導され一カ所に集められた。

 屋敷の中心にある窓のない部屋。
 父の書斎だ。
 普段なら勝手に入ればお咎めを受けるところだ。

 そんなわけで外で何が起きているのかさっぱり分からない。
 どれほど時間が経ったのか、女ばかりが不安に身を寄せ合っていると、外で見張っていたコウが扉を開いた。

 獣の脅威は去った。
 あの怪力の獣はジンが見事に帰順させたという。
 ライはそれを見届けて一足先に森へ帰ったらしい。

 朝の内に兄も帰ってきた。
 父と兄はこれから獣王の知らせを待つのだろう。
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