ビロードの口づけ
 クルミが口を開きかけた時、扉がノックされモモカがやって来た。


「旦那様、サエキ=ジン様がお見えです」
「ジンが?」


 父は少し目を見開いた。
 早朝に別れたばかりなので無理もない。


「今日は先約がある。断ってくれ」
「それが、百年前から約束があると……」
「何?」


 父が慌てて腰を浮かせた。
 モモカは困惑した表情のまま、弾かれたように後ろを振り返る。


「あ、ジン様……!」


 モモカの横をすり抜けてジンが姿を現した。
 後ろにライを従えている。
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